with 李博宸(主演)、松橋百葉
映像の撮影・共有・視聴が人々の日常になった現代。インターネットの海に公開した映像データは、PCやスマートフォンといったユーザーごとの媒体から視聴されるものとなりました。この背景は、再生デバイス、時間、場所などのユーザーごとに異なる鑑賞体験を発生させています。私たちは、映像作品は鑑賞条件が異なるたびに、別の作品として扱うべきではないかと考えます。
本作では、映像再生デバイスの物性を作品の表現に落とし込みました。鑑賞者には、所有する2台のデバイスで、2本の映像を同時再生し、ディスプレイを重ねる手法で作品を提供します。2台の画面で風景や人物は多角的に捉えることができます。また、デバイスのサイズや位置関係を比べながら見るという視聴方法では、鑑賞体験の新しい提供方法を模索しました。映像本編では、秋葉原の街を背景に、オタクカルチャーに傾倒する男性を撮影しました。秋葉原は、アニメやゲームの舞台としても有名な街柄です。このため、創作文化の聖地として、街そのものを楽しむ観光客が世界中から毎日訪れます。本作では、メディアの構造と撮影地の双方から、2次元と3次元の間を行き来する映像作品を目指しました。
制作について
秋葉原に出向き、二台のカメラを用いて撮影をおこないました。一台はスマートフォンのカメラで、主人公の行動を中心に撮影しました。もう一台は、ビデオカメラで街中や建物内を中心に撮影しました。撮影期間は1日でおこないました。主人公の男性には、行動の指示をせず、自由に秋葉原を探索してもらいました。スマートフォンのカメラでは、探索する主人公の様子を身体全体や一部分に焦点をあてて記録しました。ビデオカメラでは、主人公の目線の先や、主人公がいる周辺風景に合わせて記録しました。映像を編集する際は、それぞれのカメラで撮影した対象が再生デバイス越しに時折交差する工夫を施しました。本作を鑑賞する際は、2つの再生デバイスが用意されています。このため、主眼の位置を定めることができず、鑑賞に混乱をきたし易い作風となっています。また、交差表現を導入したため、鑑賞に慣れるまでには時間を要する可能性があります。この条件は敢えて施したものであり、これらを設定したことで、流行と共に街の様子がめまぐるしく変わる秋葉原の風景や2次元と3次元が交差する感覚の表現を目指しました。